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『小田原北条記』 江西逸志子

北条早雲に始まる北条氏5代に渡る栄枯盛衰を描いた江戸時代中期の作品。作者は江西の逸志子とされているが、これはペンネームであろう。江戸の西をすみかとしたのであろうか。伊勢新九郎と名乗った早雲がのち北条姓となるのだが、鎌倉幕府の執権政治を行った北条氏と区別するために、後北条氏や小田原北条氏と呼ばれる。

現代語訳の新書は上下2巻からなり、全10巻のなかにさまざまなエピソードが盛り込まれている。合戦や他の戦国大名、関東で覇権を持っていた関東管領上杉氏や古河公方などの周囲の人物にまつわる話も多く、北条氏を外部との関わりから描き出す視点ももっている。特に後半は、関東管領を継ぎ、北条家のライバルとなる上杉謙信や武田、全国統一をはかる秀吉の関東に押し寄せる動きをふまえ、なかなかのスピード感で描かれる。エピソードの積み重ねがつながりをもち、全体の理解へと導く構成となっている。

北条氏の盛衰もそうだが、関東の戦国時代の雰囲気や東国武将の意志決定の根底にある思考や道理、乱世とはいえ、まだ残るもののふとしての生き様など、人物描写から読み取れるものが多く、興味深い。鵠台(国府台合戦)で、初陣した安房の里見方の里見長九郎弘次は弱冠15歳ながら、相模の国の住人松田左京亮康吉にやむなく討ち取られてしまう。討ち取った康吉は猛然後悔し、一念発起し、出家してしまう。この下りは平家物語そっくりだ。

また、同じ巻5には、やもめ女がやもめ男を訴えるという、庶民の訴訟ごとをとりあげた章があり、女のとんちが泥棒の正体を暴くというような、話がとりあげられている。ほとんどが武将やその家族、または家臣の物語なので、これは珍しく、おもしろい。硬軟とりあげられるものの、話の多くはやはり、武家の生きざまに関わるものが多い。小田原衆や玉縄衆、小机衆など家臣団の活躍は、武士として命を惜しまず、忠孝に励む北条家臣と、親が子を、子が親を裏切る三浦氏や実子の竜若丸を置き去りに越後の謙信を頼っていく上杉憲政など、対比的に描かれているとみるのは穿ちすぎであろうか。もっとも、北条家伝来の家臣も秀吉の小田原攻めでは、最終的には敵に寝返る者もおり、そのあたりは公平に描かれている。

さて、さまざまなエピソードのなかでも、何といっても合戦記としての物語が一番面白い。前半は、複雑な関東の政治情勢を足利公方や関東管領の人柄をおさえつつ、ざっと把握できるようになっている。2代目の氏綱を経て、3代目の氏康の時代に隆盛を迎える。特に史上名高い、川越城への夜襲攻撃の下りは上巻のハイライトだ。両上杉合わせて八万余騎で、黄八幡左右衛門こと北条綱成の守る城を囲み、さらに古河公方までが約を違え、攻勢に回る。ここまで、国を切り取り、伊豆、相模、武蔵と領国を増やしてきた北条方は、動員できる兵力はその領国に比べ、少なかったようである。というより、敵の軍勢が多いのだ。このことは、まだまだ上杉氏が関東で威勢を保っていたということでもあろう。この後、敵に偽って窮状を訴え、油断させたのち、夜襲に成功する。

後半は、上杉、武田、今川との駆け引きのなかで、次第に小田原に迫り来る秀吉との全面衝突に向かっていく。秀吉本体は山中城を落とし、このころには内通者も出始める。一方、上州に迫る別働隊は松井田城、武蔵の松山城、鉢形城と次々に抜いてゆく。ここで、降参した大道寺氏などは北条と縁が深いのだが、北条の要の城への道案内と先駆けを行う。時代は、もう北条に利なし、と見ると逆に自家の本領安堵のために必死に攻めるのだ。この辺りになると、北条家臣団の結束や忠義はまったく感じられない。

それでも頑なに少数で抵抗し、全滅した八王子城や最後まで落城しなかった忍城などの物語が滅び行く戦国武将の生きざまとして、印象を残す。悲壮ながらも、自分の名の汚れることを恥とし、その忠義心に則って行動する小田原方が描かれることが、落日の小田原北条氏にも、少しの栄誉がある。

3代氏康が予見したように、その子氏政の政見の見誤りか、関八州というビジョンのなかでしか考えられなかったがゆえの悲劇か、運悪くという要素も加わり、自滅的な滅び方をする戦国大名の最後は、あまりにお粗末だ。しかし、それを差し引いても、関東に覇を唱え、小田原という商業圏を成立させ、繁栄を築いたのは、戦さ一方でない領国経営や治世の手腕が評価されるべきだと思う。そもそもの成立に他領をかすめ取ったり、力づくで上杉を滅ぼしたりといった正でない印象があり、また高名な他の武将の陰に隠れがちだったり、どうも分が悪い。だが、江戸につながる繁栄の礎が、北条5代の治世に築かれたとみてもよいだろう。

この北条氏については、ドラマチックな要素が少ないものの、もう少し注目されてもよいかと思われる反面、あまり世間をにぎわさず、秘匿的にマイナーな存在であってほしいとも願ってしまう。小田原の繁栄は、強引に集約した賑わいではなく、経済的な必然としてだったようである。小田原北条氏について、知るには恰好の本といえる。

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まとめ【『小田原北条記』 江】

北条早雲に始まる北条氏5代に渡る栄枯盛衰を描いた江戸時代中期の作品。作者は江西の逸志子とされているが

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