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『島津奔る』 池宮彰一郎

島津義弘を中心とした、朝鮮の役の撤退から始まり、天下分け目の関ヶ原合戦とその顛末を描いた力作。ときどき、強制的に現代に戻される箇所があって、少し興ざめするが、新たな視点もあり、なかなか面白い。少し強調しすぎの感がある登場人物もわかりやすい。

ことさらに強さが強調される島津軍は、次のように表現される。
--石曼子(シ-マンズ)。
明、朝鮮ではそう呼んだ。わずか七千の手勢で三十倍の敵、二十万を完膚なきまでに討ち破り、無敵を誇る朝鮮水軍の名称李舜臣を撃破した島津の威名は、鬼神の如く敵を畏怖せしめる。

全体を通して、島津義弘と兄義久の関係が脈流となっている。そして、兄弟のぎくしゃくとした関係は、義久の妬心によるものと設定されている。
義久に接した家康、謀臣本多正信が評する。

-かなり長い間、両者の模索が続いた。
 ふと、ある事に思い当たった。家康も、正信もである。
 「あれか?」
 「さよう。あれでござる。」
 家康は、その答えを確かめるように小首を傾げた。そして破顔一笑した。
 「まさか、兄弟の仲だぞ」
 「いかさま、左様でござった」
 正信は、逆らわなかった。
 --妬心、である。義久が義弘の声名に対する嫉妬。
 あり得ぬことではなかった。

そのほかにも、繰り返し表現される小心者としての家康像や、能吏だが、現代の官僚になぞらえて大局的な見方のできない、石田三成など、わかりやすい人間像設定が工夫されている。ただ、人間の一面は別の一面とつながり、欠点は長所でもあり、思わぬ一面もあったりするのが魅力的なのだが、その点もぬかりなく描かれているので、人物に広がりと重みがある。

家康が自己を小心者と自覚しつつ、

-「総見院殿(信長)なら、江戸を空にして東海道をひた走り、転瞬の間に治部少と干戈を交えたであろう。太閤(秀吉)なら会津上杉と和を結び、毛利・島津を調略して治部少を挟み撃ちにする…わしにはそれができぬ。その天分も才智もない」

そして、家来どもにまつりあげられながら天下取りをめざすはめに。

-「その辛さがその方らにはわかっておらぬ…うぬらは欲が深すぎる。二百四十余万石という日本一の大禄を得ておきながら、太閤が死ぬと早速にわしを押し立て、あろう事か天下取りを企んだ。」


前巻が終わって、きな臭い臭いがし始めてくる。

-戦には、匂いがある。
 と、義弘はいう。

さまざまなエピソードを描きながら、物語は関ヶ原へと進んでいく。
兄義久は弟義弘の求めに応ぜず、国元から兵を送ろうとしない。そこで勝手に国元をあとに大阪屋敷まで、駆ける者が続出した。

-だが、噂は燎原の火のように伝わり、庶民の人気は爆発した。前代未聞の走り、あるじの危殆に雲煙万里の山坂を越えて島津が奔る。人々は最初戸惑い、次に興味を惹かれ、その走りを見ようと街道に集った。
 島津勢は、その中を走った。その姿は美しさと程遠い、惨憺たるものだった。暴風豪雨にさいなまれ、疲労困憊の極に達した連中が、よろぼい走り過ぎていく。後から後から続く。
 ふしぎな感動が人々の胸中に湧いた。

合戦前夜、義弘は家康を訪れて、天下の秘事を語る。家康は東軍荷担を口にする義弘を捨て置き、結果的に西軍に加わらざるをえなくなる。天下分け目の合戦にあっては、中立は許されないのである。表面的に中立であっても、積極参戦しないことは、後日勝者から諫められることになる。また、日和見は卑怯者の誹りや家中の汚名を残すおそれがある。この辺りの処し方が難しいところである。

一面で優秀ながら、人心をつかめない三成の人物像は、現代の官僚とダブらせて高慢に描かれる。夜襲を提案する義弘(島津惟新)に、にべもない。

-「どうであろう。遠来の備前中納言殿を煩わすのが得策でないとお考えなら、薩摩島津一手で夜襲を致そう。宇喜多勢一万七千に後詰めを願って、成功の兆しがみえたら戦場に出馬いただく」
 「惟新殿、少しお控え下さらぬか。主将はこのわしだ」
 三成は、そこまで言い切った。
 義弘は、忿怒を抑えるしかなかった。

さて、いよいよ合戦がはじまると、臨場感のある描写が続く。

-戦場というのは、常識を越えた狂気の場である。人が人を殺す。殺さなければ殺される。理非も曲直もない。ただ生きんがために殺し合うのである。
 髪の毛までが逆立つという。髪の毛どころか総毛逆立つのである。恐ろしいだけではない。生きようとする本能、相手を倒そうという本能が肉体を支配して、髪の毛一本、肌毛一本までが逆立って、相手に立ち向かうのだ。

関ヶ原でも人間的魅力に乏しい人物として設定される人物が出てくる。その一人、吉川広家。

-南宮山中腹の稜線で、東西両軍の死闘を望見する吉川広家は、得意の絶頂にあった。
 --この天下分け目の合戦の、勝敗の鍵はおれが握っている。

逆に知略胆略に富む人物として描かれる大谷吉継。
最初は西軍が優勢なのである。それが、天下の卑怯者、小早川秀秋の裏切りで流れが変わる。この小早川軍でも裏切りを、よしとしない秀吉恩顧の陪臣、松川主馬なども描かれる。

そして、勝敗が決まりつつある中、この物語のクライマックスが訪れる。

-「鋒矢の陣形を取れ!」

敗軍に属した島津勢が退却戦である。しかも名に恥じることなく、武威を高めることを目的とした退散。こんなことがいかにして行われたか、この美学を描くために書かれた物語だ。細かなエピソードを辿りながら、薩摩へと帰国した義久にとって、合戦の後始末は大仕事。というより、いかに領土、領民をとどめおくか、本領安堵のために行った退却戦だった。
家康と三成と義弘のみが気づいた天下の秘事、これを質にして本領安堵ばかりか、琉球を加増されるという結びまできて、こじつけでもあり道理でもあるかな、と思えた。

登場人物のわかりやすすぎる性格描写は読み手の好悪の分かれるところだと思う。技巧的に司馬遼太郎のような匂いも感じるが、いかんせん、司馬遼太郎ではないのである。薩摩言葉とエピソードの数々にどこか漫画的な面白みを感じた。

ちなみにこの本、過去に司馬遼太郎作品の『関ヶ原』と類似箇所があり、回収、絶版になったとのこと。素材が同じだとエピソードも似るのかもしれませんが、基本的に味わいがずいぶんと違うように思えたので、そこまでしなくてもと思うのだが。また、『関ヶ原』が読みたくなってしまった。

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